サッカー アジリティーの科学 後編

サッカー選手なら、誰しもアジリティーの“キレ”を向上させたいと考えるのではないでしょうか。

 

 

前編でもお伝えした通り、研究データによると、サッカーの方向転換では、移動角度により身体がとる方向転換戦略は異なるということが明らかになっています。

 

 

前編では「速度維持」が鍵となる浅い角度について解説しましたが、一方で、相手を完全に置き去りにするような「60~180°」の深い角度の方向転換も、試合の決定的な局面で必ず要求されます。

 

 

研究によると、ディフェンダーは、後方への移動や横方向の動きを行う回数が多く、ストライカーは高強度での停止レベルが高く、より急激な方向転換と減速を行うことが分かっています。

 

 

つまり、この領域で最も求められるのは、いかに短時間で強力なブレーキをかけ、次の動作へスムーズにつなげるかという「減速の質」なのです。

 

 

しかし、多くの選手は膝優位な止まり方をしており、パフォーマンスが低下するだけでなく、膝の靭帯(ACL)損傷などの重大な怪我のリスクを抱えています。

 

 

今回は、サッカー アジリティーの科学 前編に続き、Ligareの専門領域である解剖学·運動学的視点から、安全かつ鋭く止まって切り返すための「股関節·骨盤のメカニズム」を解説します。

 

 

減速局面

60°~180°の鋭いターンにおいて、最も重要なのは「ターン動作そのもの」ではなく、その直前の「準備(減速)」です。

 

 

ここで物理的なエネルギーを適切に処理できなければ、膝への過度な負担(ACL損傷リスク)や、ターン時の膨らみ(ロス)につながります。

 

 

✔︎PFC(Penultimate Foot Contact)の重要性

方向転換をする足(最終接地足)の「一歩手前の足」をPFCと呼びます。

 

トップ選手は、ターンする足で減速するのではなく、このPFCで重心を下げ、強力な予備ブレーキをかけています。

 

PFCで運動エネルギーの大半を殺すことで、最終接地足は「止まること」にリソースを割く必要がなくなり、「次の方向へ蹴り出すこと」に専念できるのです。

 

 

✔︎ネガティブシンアングル

効果的なブレーキをかけるための下肢の角度です。

 

 

接地した足に対し、膝が前に出る(ポジティブ)とブレーキがかからず、膝関節への剪断力が増大します。

 

 

逆に、「足部よりも膝が後ろにある状態(スネが後傾している状態)」をネガティブシンアングルと呼びます。

 

 

この角度で地面を前方へ強く押すことで、その反作用(地面反力)を後方への強力な制動力として利用できます。

 

 

横方向への減速の際は、進行方向に対してスネが反対側に傾いている状態が効果的にブレーキをかけることが出来る状態になります。

 

 

✔︎仙腸関節の「締まり」のポジション

自体重よりも強い減速の衝撃を受け止めるためには、骨盤の剛性が必要です。

 

 

減速時は、骨盤を軽度前傾させ、仙骨が前傾する「ニューテーション」の状態を作ります。

 

 

これにより仙腸関節が物理的に噛み合う「締まりの位置」となり、衝撃で骨盤がグラつくのを防ぎます。

 

 

この「骨盤のロック」がないと、衝撃が腰椎や膝へ逃げてしまい、怪我の原因となったり、次の動作へのロスに繋がります。

 

 

停止局面

完全にブレーキがかかり、次の方向へベクトルが切り替わる一瞬の静止状態です。

 

 

ここは単に止まるだけでなく、次の爆発的な加速のためのエネルギーを蓄えるフェーズです。

 

 

✔相対的な股関節内旋

ターン動作において、足が地面に固定された状態で骨盤が正面もしくは次の進行方向へ回っていくと、股関節では相対的に「内旋」の動きが起こります。

 

 

股関節が適切に内旋することで、殿筋群(お尻の筋肉)が引き伸ばされ、エキセントリック収縮が生まれます。

 

 

「膝で耐える」のではなく「股関節で引き込む」感覚が重要です。

 

 

✔体幹の傾き

インサイドカッティング(内脚主導のターン)や鋭い切り返しでは、次の進行方向へ体幹を傾けることが必須です。

 

 

恐怖心から身体が起きたり、逆に外側へ脇腹が折れる「側屈」が入ると、重心が支持基底面の外へ逃げ、外脚の膝への外反ストレスが激増します。

 

 

足首から頭までを一直線に保ち、バイクがコーナーを曲がるように「行きたい方向へ身体を倒す」ことで、関節への負担を最小限に抑えつつ、スムーズな加速に繋げます。

 

 

加速局面

静止した状態から爆発的な蹴り出しで、相手を置き去りにするフェーズです。

 

 

ここでは「分離」と「固定」の協調が鍵となります。

 

 

✔体幹の先行回旋

スムーズな加速は、足が動く前に始まっています。

 

 

下半身がまだ地面を蹴っている段階で、目線と胸郭を「次に行きたい方向」へ先行して回旋させます。

 

 

骨盤は蹴り出しのために残り、上半身は先に行く。

 

 

この「上半身と下半身の分離」によって、下半身に余計な力を入れずに自然な加速を誘導できます。

 

 

✔ヒップロック

遊脚(浮いている側の足)側の骨盤を一気に引き上げ、軸足側の骨盤を下制させる動作です。

 

 

蹴り出しの瞬間、遊脚側の骨盤が落ちてしまうと力が逃げてしまいます。

 

 

片脚で力強い推進力を生むために軸足の安定性を高めるヒップロックは必須となります。

 

 

Ligareのアプローチ

理論上は理解できても、実際にこの動きを体現するには「構造」が整っている必要があります。

 

 

・PFCでネガティブシンアングルを作る接地の仕方ができるか?

・数Gの減速衝撃を受け止めるだけの仙腸関節の「締まり」はあるか?

・骨盤前傾をキープし、急ブレーキに耐えうるハムストリングスの遠心性筋力はあるか?

・下半身を固定したまま、スムーズに次へ向けるだけの胸郭の柔軟性はあるか?

 

 

「止まる瞬間に膝が痛む」「切り返しでどうしてもワンテンポ遅れる」。

 

 

その原因は、スキルの問題だけではなく、強烈な減速負荷に耐えられない身体の構造(機能不全)にあるかもしれません。

 

 

「膝で止まる」のは今日で終わり。

 

 

まずは自分の股関節と骨盤が「正しく機能する状態」にあるか、確認することから始めましょう。

 

 

―――

 

 

Ligareのファンクショナルコースでは、日常生活での肩こりや腰痛、膝痛などの不調改善を【コンディショニング+パーソナルトレーニング】でトータルサポートを行っています。

 

トライアルは随時受け付けております。

 

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参考文献:

·Dos’ Santos, T., et al. (2018). The Effect of Angle and Velocity on Change of Direction Biomechanics. Sports Med.

·Bloomfield, J., et al. (2007). Physical Demands of Different Positions in FA Premier League Soccer. J Sports Sci Med.

·Dos’Santos, T., et al. (2019). The Role of the Penultimate Foot Contact During Change of Direction. Strength & Conditioning Journal.

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