25.12.27
減速動作から考える、ケガ予防とパフォーマンス向上ー股関節機能ー
Ligareに来られる多くの方は、初回のカウンセリング時点では
「ケガを予防したい」
「現在ある痛みを改善したい」
といった目的を持って、パーソナルトレーニングを受けに来られます。
特にスポーツ経験のある方や、過去にケガをした経験がある方ほど、
「これ以上悪化させたくない」
「また同じケガを繰り返したくない」
という思いが強く、まずは身体の不調を取り除くことを最優先に考えられているケースが多く見られます。
しかし、トレーニングを継続し、身体の状態が安定してくるにつれて、目標が少しずつ変化していく方が非常に多いのも特徴です。
痛みが軽減し、日常生活や運動時の不安が少なくなってくると、
「以前よりも楽に動けるようになってきた」
「せっかくなら、もっと身体を思い通りに使えるようになりたい」
「趣味で続けているテニスやサッカーのパフォーマンスを上げたい」
といった、より前向きで発展的な目標へと意識が向いていきます。
Ligareでは、このような段階的な変化をとても大切にしており、単に痛みを取るだけでなく、その先にある「動ける身体」「競技を楽しめる身体」を見据えたサポートを行っています。
スポーツを楽しむ中でケガをしてしまう方の経過をみていると、多くの方に共通して見られる“動きの特徴”があります。
その中でも特に多く見られるのが、止まるために必要な【減速動作】がうまく行えていないという点です。
❶減速動作はなぜ必要なのか?
減速動作は、テニスやサッカーなどのスポーツで頻繁に行われる
【ダッシュ → 急な方向転換 → 再加速】
といった一連の動作の質に直結します。
これらの競技では、単純に速く走れること以上に、
「どれだけスムーズに止まり、次の動作へ移行できるか」
がパフォーマンスに大きく左右します。
進行方向を頻繁に変えるスポーツでは、【加速して止まる → 加速して止まる】という流れが連続して求められます。
進行方向を変えたい場面で、ダッシュによって生まれた勢いを片脚でうまく吸収できないと、次の加速動作へスムーズにつなげることができなくなります。
勢いを吸収しきれない場合、上体が過剰に前方や側方へ流れてしまい、身体の軸が崩れた状態で次の動作を行うことになります。
このような動きが続くと、次に進みたい方向とは逆方向へ上体がブレてしまい、その修正に余計な時間とエネルギーが必要になります。
結果として動作のロスが大きくなり、スムーズな再加速ができなくなるだけでなく膝や足関節、股関節に過剰な負担がかかり、ケガのリスクも高まってしまいます。
❷減速動作とは?
減速動作として必要になるのは、次に進みたい方向に対して
【スネを傾けた状態を保ちながら、股関節と体幹を連動させて衝撃を吸収する動き】
です。
減速したいときの1歩目で、スネの傾きを次の進行方向に対してキープできないと、膝や足関節が過度に曲がり、一歩で止まることが難しくなります。
その結果、複数のステップを踏んで無理に止まろうとしたり、身体が流れたまま方向転換を行ったりする動きが生じます。
スネの傾きを保つためには、膝や足首だけで衝撃を吸収しようとするのではなく、股関節と体幹を連動させて衝撃を受け止めることが重要です。
これにより、下肢の末端にかかる負担を減らしながら、安定した減速動作を行うことが可能になります。
❸股関節のどんな動きが必要になるのか?
先ほど説明した減速動作に共通して必要となる股関節の機能は、
股関節の屈曲および内旋方向への可動性・安定性
となります。
減速時には、スネを固定した状態で股関節が曲がり、上体が前傾する動き(加速方向への力が働いているため)が見られます。
このとき、股関節を適度に曲げることで、お尻やもも裏の筋肉が伸ばされながら働き、加速によって生じた衝撃を吸収しています。
そのため、まずは衝撃を受け止めるために必要な【可動性】を確保することが重要になります。
可動性が出てきた後は、その動かせる範囲の中で、減速に必要な負荷に耐えられるよう、筋の【安定性】を高めていく必要があります。
Ligareでは、このように関節機能の改善を段階的に行いながら、実際の競技動作に近いムーブメントトレーニングを通して、「どの筋肉が使えているのか」「どこで代償が起きているのか」を確認・修正し、減速に必要な動きを獲得していきます。
股関節屈曲・内旋の可動性を獲得するためには、以下の点が重要になります。
❹股関節の可動性を引き出すためのポイント
股関節外旋筋である梨状筋の伸張性を改善する
梨状筋の柔軟性が低下すると、大腿骨頭が後方に移動する動き(この動きによって股関節を深く曲げられる)が低下します。
始めに股関節屈曲・内旋の可動性を改善しましょう。
❺体重をかけた状態での股関節安定化トレーニング
減速動作に必要なヒップヒンジの動きを獲得した後は、加速によって生じる負荷をコントロールするために外旋筋とハムストリングスのトレーニングをしていきます。
外旋筋とハムストリングスが伸ばされながら働く「遠心性収縮」が重要になります。
実際のスポーツ動作では、非荷重の状態で動くことは少ないため、荷重下でのコントロールが重要になります。
トレーニング中は、お尻周囲の筋の張りを確認しながら、適切に負荷がかかっているかを意識して進めていきます。
❻ムーブメントトレーニングへの移行
重りを持った状態でも基本動作が安定して行えるようになったら、実際の競技動作に近いムーブメントトレーニングへと移行します。
方向転換時に、進行方向と逆方向へスネを傾けながら、外旋筋とハムストリングスを適切に使えるよう段階的にトレーニングを行っていきます。
このようにLigareでは、改善したい動きに対して問題となっている関節機能を一つひとつ整理し、機能改善とトレーニングを組み合わせながら、減速に必要な動きを獲得していきます。
その結果として、ケガの予防だけでなく、趣味やスポーツをより安全に、より高いパフォーマンスで楽しめる身体づくりをサポートしています。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
参考文献
・股関節理学療法マネジメント 機能障害の原因を探るための臨床思考を紐解く メジカルビュー社
・筋骨格系キネシオロジー Donald A.Neumann 医歯薬出版株式会社
・加速走からの急停止における予測的姿勢制御の運動学的特徴 能代ら





