25.12.06
膝前十字靭帯 術後リハビリテーション | メディカルリハ編
膝前十字靱帯(以下ACL)損傷は、スポーツ復帰まで9ヶ月程度かかるとされており、スポーツにおける怪我において悩まされる怪我の1つとされています。
その再発率は決して低くなく、競技レベルの高さや年齢に関わらず、復帰までに多くの時間と労力を要することが知られています。
本記事では2回に渡って、ACL再建術後のリハビリテーションにおいて本格的に運動療法が開始されていく全荷重開始段階からのリハビリテーションについて
「 どの段階で何を獲得し 」
「 どの基準を満たすべきなのか 」
を中心にご紹介していきます。
ACL損傷の発生背景
ACL損傷は、方向転換やストップ動作、着地を伴うスポーツ全般で高頻度に発生します。
特にサッカー、バスケットボール、ハンドボールでは、競技特性上、ACLに高い剪断ストレスと回旋ストレスが加わる局面が多いことから、若年~競技者に広くみられる外傷です。
受傷形態は以下の2つに分けられます。
1接触型
2非接触型
その中でも、ACL損傷の多くは非接触型が約70%1)とされ、かつ男性よりも女性に多い1)と報告されています。
非接触型は、身体機能や運動能力の要因が関与しており、場合によっては避けられる受傷機転であると考えられます。
発生機序としては、膝が内側に入る外反位を呈することが多く、非接触型損傷では急激な減速やジャンプ後の着地動作に多く見られます。
つまりACL損傷を予防するには、着地動作や急激な方向転換の際に膝への外反ストレスを軽減する身体の使い方が必要になると考えます。
再建術後のリハビリテーションの流れ
近年ACL損傷のリハビリテーションは、時間ベースtime-basedのプロトコルから、個別化された進行基準ベースcriterion-basedのプロトコル2)に移行しています。
進行基準ベースのリハビリは、時期や経過ではなく確かな機能回復のもとに進行するため、トレーニング強度を高めた際や実際に競技復帰をしていく中で疼痛や動作不良が出現する可能性が低く、また仮に出現した場合でも対応策を考えやすいという利点があります。
リハビリテーションの流れとしては、術前・術後早期~術後3ヶ月までをメディカルリハビリテーション、術後3ヶ月以降をアスレティックリハビリテーションとして進めます。
競技復帰においては、術後早期の復帰は再受傷のリスク因子となり3)、術後9ヶ月以降に再受傷率が低下する3)という報告がなされています。
基本的には9ヶ月以降ですが、患者のスポーツレベルや求めるスポーツ復帰は個人で異なるため、6~12ヶ月など復帰時期はそれぞれです。
全荷重開始〜2ヶ月目
この時期では両脚荷重位のトレーニングを開始し、最終的には片脚立位の安定および荷重応答機能の獲得を目的とします。
骨孔が塞がり、靱帯と癒合するのには術後約8~12週を要するとされている4)ため、膝の屈曲可動域は120°を大きく超えないように注意する必要があります
▼ 目的
• 正常歩行の獲得
• 両脚における股関節制御を優位とした動作の獲得
•片脚立位の安定および荷重応答機能の獲得
リハビリメニュー
ヒップリフト
SCKCで体幹と殿筋群を連動させた股関節制御を学習します。骨盤の後傾と合わせて股関節を伸展できるようにしましょう。
ルーマニアンデッドリフト(両脚→片脚)
股関節主導での力の吸収/発揮を学習します。スクワットのような膝が曲がる動作において、股関節制御を十分に働かせるために、意識づけとして行います。
スクワット
下肢3関節による鉛直方向への力の吸収/発揮を学習します。膝優位や股関節優位にならないようにバランスよく行うことで、力のロスを最小限に抑えた効率的な動作を獲得できます。
現場で使える進行基準
-可動域-
• 膝伸展制限なし
• 膝屈曲可動域120°以上
-筋力-
• CKCトレーニングで疼痛/腫脹の増悪がない
-動作の質-
• 歩行における跛行がない
2〜3ヶ月目のリハビリ
この時期では3ヶ月目から開始されるジョギングに向けて、下肢筋力強化および片脚での荷重応答機能の更なる向上を図ります。
プロトコルに対して遅れを取らないようにしっかりと筋力を上げていく中で、動作中のマルアライメントを見逃さず、適宜修正していくことが重要となります。
▼ 目的
• 下肢3関節による力の吸収/発揮
• 基礎筋力・遠心性コントロール獲得
• ジョギング開始に向けた着地衝撃吸収能力の再構築
リハビリメニュー
スプリットスクワット
片脚で下肢3関節による鉛直方向への力の吸収/発揮を学習します。膝関節の伸展モーメントが増大することで、大腿四頭筋に遠心性の負荷がよりかかります。
ドロップスクワット
ジャンプにつながる着地動作でのマルアライメントを防ぐために、膝関節の動的安定性を高める目的で行います。適切に膝を緩めた上で、ボトムポジションでビタっと止められる動的安定性が大切になります。
現場で使える進行基準
-可動域-
• 膝伸展制限なし
• 膝屈曲可動域140°以上
-筋力-
• 片脚立ち上がりテスト30cm可能
-動作の質-
• 片脚スクワット(膝70°)3回を代償なく実施可能
前述の通り、進行基準ベースのリハビリはプロトコルに対して遅れを取らないようにすることが大切です。
動作の質を求めすぎて筋力が戻っていなかったり、疼痛やマルアライメントを放置して動作が改善されていなかったりしないように進めていきましょう。
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参考文献:
- 福林徹,蒲田和芳/ACL損傷予防プログラムの科学的基礎/有限会社ナップ/2012
- Stephanie R.Filbay, Hege Grindem /Evidence-based recommendations for the management of anterior cruciate ligament (ACL) rupture /Best Pract Res Clin Rheumatol./2019 Feb;33(1):33-47
- 黒川純,梅原弘基,小林雄也/スポーツ復帰を目指す 膝前十字靭帯損傷のリハビリテーション -臨床の実際から学ぶ理学療法-/中外医学社/2023
- 内山英司,岩噌弘志,園部俊晴,今屋健,勝木秀治/スポーツ外傷・障害に対する術後のリハビリテーション/株式会社 運動と医学の出版社/2022





